石鹸枠を昇華させるか ロクでなし魔術講師と禁忌教典
今春スタートした新作アニメ「ロクでなし魔術講師と禁忌教典(ロクアカ)」。SNSで感想を眺めていると、石鹸枠にカテゴライズされているように見えます。ですが、本当に単なる石鹸枠に過ぎないのでしょうか。
ロクアカは、「魔術と科学がともに発展した世界」のとある魔法学校を舞台に、「ロクでなし」の烙印を押された非常勤講師と、文武ともに長けているエリート学生たちという対極に位置する両者の交流と成長を描いた作品です(公式サイトより)。
確かに一見すると、ロクアカはいわゆる「石鹸枠」だと思われます。しかし、この作品は石鹸枠作品の伝統的な表現手法を用いながら、石鹸枠の中核を一新しています。以下では、「石鹸枠」というワードを簡単に説明したうえで、ロクアカがどのように石鹸枠を一新しているのかを考えていきたいと思います。
1.石鹸枠とは
「石鹸枠」という言葉は筆者の造語ではなく、すでに存在する言葉です。この言葉自体を定義することは難しいですが、石鹸枠の作品に共通の構成要素があります。ニコニコ大百科によれば、
・ファンタジー世界における魔法や異能を使った超常バトル
・中二病要素
・学園が舞台
・王道ストーリー
・正義感の強い主人公が卓越した力で悪者を成敗するサクセスストーリー
・ハーレム要素
・MF文庫J作品が中心(最近は他レーベル作品も増加)
これらの要素により、石鹸枠作品は構成されているとのことです。なお、大百科曰く、これらの要素をすべて満たす必要はなく、多く含んでいるほど石鹸力(濃度)が高いということです。
2.石鹸枠の伝統の継承
まだ1話しか放送されていないので、ロクアカの石鹸力を測るのは時期尚早かもしれません。ですが、石鹸力はかなり高いと予想されます。世界観・舞台は言うまでもなく、主人公が1話の冒頭で「正義の魔法使いになりたかった」と諦念混じりに言及しているあたり、話が進むにつれて正義感を取り戻し、悪者を倒すサクセスストーリーだろうと推察されます。
ハーレム要素もふんだんに盛り込まれています。恐らく1話で登場した対極的な雰囲気の2人の美少女キャラが主人公に恋愛すると思われます。お淑やかなキャラ(ルミア)と気が強いキャラ(システィーナ)が主人公に対し、どのようなアプローチを仕掛けるのか見ものです。
3.ラッキースケベイベントによるヒロイン確定の回避
このようにロクアカは石鹸枠の伝統をしっかり受け継いでいます。しかし、ラッキースケベイベントに着目すると、ロクアカは従来の石鹸枠を脱却していると考えられます。なぜなら、ロクアカは「ラッキースケベイベントによるヒロインの確定」を行っていないからです。
石鹸枠作品にとり、ヒロインの確定は重大です。骨しゃぶり氏の記事でも言及されているように、石鹸枠作品に求められているものは主人公ではなく、ヒロインです。そのヒロインを早く確定しなければ、視聴者はどの美少女キャラについていくべきかを判断できず、離れていきます。
そのため、既存の石鹸枠作品は1話の比較的早い段階で(約3分とも言われている)、ラッキースケベイベントを発動し、どの美少女キャラがヒロインであるかを視聴者に的確に伝えます(詳しいことは前掲の記事を参照してください)。
例えば、骨しゃぶり氏の記事にもあるように「落第騎士の英雄譚」や「学戦都市アスタリスク」は、主人公が美少女キャラの下着姿に遭遇するイベントを発動し、ヒロインを確定しています。
出典:落第騎士の英雄譚 第1話
出典:学戦都市アスタリスク 第1話
こうした従来の石鹸枠作品に対し、ロクアカはラッキースケベイベントを通じたヒロインの確定をしていません。4分ぐらい経ったところで、主人公がルミアとシスティーナに街角でぶつかりそうになります。ですが、主人公はシスティーナの魔法攻撃によって吹き飛ばされ、イベント発生は阻止されます。ロクアカでは、「ラッキースケベイベントによるヒロインの確定」が意図的に避けられており、存在しません。
確かに直後に噴水に叩き込まれた主人公がルミアにセクハラをします。ですが、このセクハラも「ラッキースケベイベント」という運命のめぐりあわせではなく、主人公自らが積極的に行動した結果です。
4.偶然の出来事から意図的な行為へ
では、このセクハラという描写には何も意味はないのでしょうか。違います。このセクハラこそがヒロインを確定する方法です。
繰り返し述べているように、従来の石鹸枠作品は、ラッキースケベイベントという偶発的なイベントによってヒロインを確定します。たまたまその場にいた主人公と特定の美少女キャラが、ハプニングに出くわし、偶然スケベな状況に陥ることで、その美少女キャラがヒロインになります。
この場合、ヒロインは神や宿命のような存在の手によって選定され、主人公自らの意思で選ばれていません。これでは主人公自身がヒロインをどう思っているのか、好きかどうか、守りたいかどうかといったことが判然としません。主人公が不本意ながらヒロインを押し付けられている可能性も考えられますし、他の美少女キャラに興味がある可能性も考えられます。
ロクアカはこの問題を解決するために「セクハラ」という方法を用いたのではないでしょうか。セクハラの対象は偶然決まるものではなく、セクハラをする人が興味・関心、性的嗜好などに基づいて意図的に選びます。そのため、従来の石鹸枠作品と比べ、主人公が対象の美少女キャラに対し、何を思っているのかが分かりやすいです。実際にロクアカでは、主人公がルミアとどこかで会ったことがあり、気にかけていることが判明します。ロクアカはセクハラを用いることで、ヒロインの選定に主人公の意思を介在させ、その美少女キャラがヒロインであることをより分かりやすく視聴者に伝えようとしています。
5.主人公のイメージアップ戦術は?
以上見てきたように、ロクアカは石鹸枠の伝統を多く引き継いでいながら、ヒロインの確定という石鹸枠の中核部分を一新しています。その点でロクアカは単なる石鹸枠に留まらない画期性があります。
しかし、ロクアカは問題も抱えています。普通に考えれば、セクハラはキモいし、犯罪だし、セクハラしてきた男性を好む女性なんていないです。セクハラされた美少女キャラから見れば、主人公は気持ちの悪い変態野郎です。主人公はその「変態野郎」という立場を脱却し、なおかつヒロインを落とさなければいけません。これは至難の業です。果たして主人公がどのようにイメージアップを図り、ヒロインに恋愛感情を抱かせるようになるのかが課題となるでしょう。
ただ、すでに1話後半で主人公とルミアが食堂で和気藹々と会話をしているので、都合よく無視されているようにも思えます。まぁそこまで要求する必要はないかもかもしれませんが。
とまぁ、ごちゃごちゃ申し上げてきましたが、PVや1話全体を見た限りでは、面白そうなので、これからも見続けたいと思います。とりあえず2話が楽しみです。
原作(ライトノベル)はこちら。
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(2017年4月8日19時06分加筆修正)